古典について

蘭亭序はなぜ数種類あるか

清の時代、書斎名を『二百蘭亭斎』と名づけたのは呉雲という人でした。これは蘭亭序を二百種類も持っているぞ、という自負?からの命名でしょうか。「八百蘭亭」などという言葉も伝わっています。

宋時代、蘭亭序は「士人であれば一家に一石を蔵す」と言われるほど流行したと言います。

全文324文字の豊かな変化と調和

蘭亭序は353章、王羲之により書かれました。春三月の好日、著名人達を詩酒に興じる雅宴を催しました。その時作られた詩集の序文(草稿)が蘭亭序なのです。

全文324文字、どの文字を採っても、豊かな変化と調和があり、後日、何度清書を試みても、草稿に優るものは書けなかったとして、この蘭亭序を大切にしたといいます。
更には、唐の文人皇帝・太宗が王羲之の書を熱愛・収集したことが、羲之の書名を高めたことと相乗して、古今無比の名帖となったのです。

蘭亭序が数多く残っている理由

蘭亭序を入手した太宗皇帝は、時の名人、欧陽詢・虞世南・褚遂良などに臨書(=臨本)させ、また職人には、敷き写し(=模本)をさせ、コピーを沢山作らせて多くの者に習わせたといいます。これらが数多くの蘭亭序を生む経緯と考えられます。

その後、太宗皇帝は649年死に臨んで遺言し、自身の陵墓へ蘭亭序を持っていったといいます・・・。

拓本蘭亭序「神龍半印本」当会理事 臼井南風先生蔵

拓本蘭亭序「神龍半印本」当会理事 臼井南風先生蔵

弘法大師 空海の手紙「風信帖」は誰宛?

風信帖は、空海が最澄に返書した消息(しょうそく)です。消息とは手紙のこと。即ち、最澄宛の消息ですので、はじめは最澄の比叡山延暦寺に保管されていたことになります。

三通からなる風信帖

現存の封信帖は、消息三通を一巻の巻物に仕立てたもの、一通目の書き出し、「風信雲書・・・」から『風信帖』と命名されました。
二通目は「忽披枉書・・・」から『忽披帖(こつひじょう)』、三通目は「忽恵書礼・・・」から『忽恵帖(こつけいじょう)』とされそれぞれ独立して呼ばれます。そして三通を総称して風信帖と呼ばれているのです。

ほんとうは5通あった!?

面白いことがこの一巻の最後、奥書に書かれています。消息はもともと五通伝来したと書かれています。

消えた二通は?一通は、盗難にあい紛失したと書かれています。“目利きの盗賊?“の仕業だったのでしょうか。もう一通は、時の権力者、関白豊臣秀次が所望した為、割愛したのだそうです。秀次は、四通中一番優れたものを欲したのでしょうか?

風信帖の魅力

風信帖の魅力を簡潔に言えば、「風信帖」は、格調高く豊かな変化の美がみられる作。「忽披帖」は、筆圧ある太線で重厚な迫力ある作。「忽恵帖」は、運筆のリズム・流れに優る作。と言えると考えます。

目利きの盗賊は別として、秀次が入手した消息が現存の三通以上のものだったとしたら・・・。
風信帖とは書学習に不可欠であることは言うまでもなく、あれこれ想像する楽しさも有するのが、風信帖なのです。

俯仰法とは

筆づかいに直筆(ちょくひつ)と側(そく)筆(ひつ)のあることをご存知ですか?また、直筆と側筆はどちらがいいのでしょうか?筆づかいは書線を生む重要な要素です。勉強・追求していくことは書を志す人の大きな課題の一つです。

直筆と側筆

直筆とは、筆の軸=筆管(ひっかん)を垂直に構えて書くこと。紙に対して筆を90度にして書き進めることです。
代表者は唐の顔真卿の楷書を挙げることができます。これに対して、筆管を左右・上下などに傾けて書く筆づかいを側筆といいます。やはり唐の褚遂良の楷書や行書などに顕著に表現されています。

直筆と側筆が表す線とは

結果、直筆は鋒先が線の中心を通るため、丸みのある線となり、柔らかさ温か味を感じさせる書線となります。反面、変化に乏しい表現ともなります。

側筆とは、筆の鋒先が線の上部や下部また中心を通るので、線の太細、線質の強さ、粘りなど豊かな変化ある線質で表現できることになります。

変化の用筆

この側筆を用いた用筆が『俯仰法』です。即ち、俯仰法は「変化の用筆」と言っていいと思います。筆菅を傾けて手首を使った技術的な筆づかいです。

横画で具体的に簡略してみます。まず始筆では手の甲が見えているとします。=伏せた状態。

伏せた状態

伏せた状態

雁塔聖教序の横画に見えるように送筆部では右方向へ書き進むにつれ、掌(たなごころ)が上を向く、見えてきます。=仰ぐ状態。

仰ぐ状態

仰ぐ状態

そして終筆ではまた手の甲を上にして終わる要領です。手首を使って 甲→掌→甲 と繰り返してみてください。ゆっくりと。

古法と新法

王羲之や褚遂良などの用いた俯仰法は、「古法」と呼ばれました。先の顔真卿の直筆による楷書「新法」が誕生したからです。

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