書道の展示会で、何と書いてあるのかまったく読めない作品に出会ったことがあるという人も少なくないでしょう。学校の授業で一般的に習うものは楷書や行書ですが、文字を芸術とする書道では、そのほかにもさまざまな書体を書きます。
これらの文字は、古いものになると2200年ほど前にまで遡る、由緒正しいものです。
ここでは、書道で書かれる書体についてまとめてみました。
文字と書の誕生
書道で書かれる漢字は、今から3000年ほど前の中国、殷王朝の時代に使われていた甲骨文字に由来しています。甲骨文字はもともと情報を絵で伝えるためのもので、当時は亀の甲羅や牛の骨などにそれを書いていました。この時代は、この亀の甲羅や牛の骨のひび割れ具合で、占いも行っていました。
その後殷王朝を滅ぼしてできた周王朝は、もともと占いにしか使わなかった甲骨文字を他部族との契約に使うようになりました。言葉が違っていても伝わる文字は瞬く間に浸透していき、広く使われるようになっていきます。
この時代の文字はどちらかというと絵に近い形をしており、それが徐々に簡略されていくことによって文字となっていきます。その文字となる過程の中で、最終的に生まれたのが、現在書道で使われている5つの書体です。
さらに文字の美しさを追求した「書」が生まれ、これによって書道の書体ができてきます。
現在使われている書体
では、現在書道で使われている書体にはどのようなものがあるのでしょうか。下記に現在使用されている書体を5つ、まとめてみました。
篆書
篆書は広義的には隷書が生まれるまでの文字のことを指します。甲骨文字が生まれてからも、中国では金文、大篆といった文字が生まれています。しかし、現在篆書というと、秦の時代に生まれた小篆のことを指します。
周王朝が甲骨文字を広めてから、中国の各所で文字が使用されるようになりましたが、それらは土地によってバラバラで、全く統一がされていませんでした。今からおよそ2000年前、中国統一に成功した秦は国が統一された法治国家であることを示すために、バラバラだった文字を統一しました。これが現在篆書で書かれている小篆です。
比較的甲骨文字に近い形をしており、現在も篆刻の印鑑などで使用されています。また、日本では弥生時代の銅貨に篆書で書かれた文字が見つかっており、日本で使われていた最古の文字とも言われています。
隷書
隷書は篆書がより実用的になったもので、別名「八分」とも呼ばれています。「波磔」という波打つような左右のはらいと、横長の書体が特徴的です。
篆書は文字としての美しさはありましたが、非常に複雑で、書くのが難しいことが難点でした。秦は事務処理のほとんどを現場の役人が行っていたため、書きにくい篆書は迅速な事務作業に大きな負担を強いていました。
そこで現場の役人たちが篆書を崩して書きやすくしたものが隷書です。ここからさらに草書、行書、楷書という3つの書体が生まれていきます。
草書
草書は隷書をさらに簡略化したものです。独特の崩し方をされているため、専門的な勉強をしないと読み解くことが困難で、書道以外で一般的に使用されることはほとんどありません。
草書は今から2000年ほど前の前漢時代に、史游という人物が章草を生み出したのがきっかけでした。それがさらに発展し、現在使われている草書は後漢時代に定まったと言われています。現在の草書を作ったのは、後漢時代に草聖と呼ばれた張芝という人物です。
また、日本には日本語の音を表現するために作られた「万葉仮名」と呼ばれる漢字があります。これを草書風に崩した文字は、草仮名と呼ばれています。
行書
行書も草書と同じく、隷書を簡略化したものです。抑揚を付けながら文字と文字の間を繋げて書くスタイルで、次の一画との間は離したり繋げたりが自由にできます。
草書と違う点は崩し方が独特ではなく、崩し方や省略の仕方にも一定の決まりがあるという点です。そのため草書と違って読み取りやすく、現在書道でも楷書と並んで習う人が多い書体です。
行書は後漢時代に生まれた書体で、この時代の劉徳昇という人物がつくったとされています。行書のスタイルは楷書の崩し字ですが、基本的には隷書と草書の長所を取った形です。
楷書
現在もっとも一般的に使われている書体です。楷書の元となっているのは隷書ですが、基本的なスタイルは、草書の書体を崩さずに一画一画を丁寧に書いたものです。ただし、隷書よりも画数が少なく、整った形になっています。
楷書が生まれたのは、約1800年前の中国三国時代です。それからおよそ400年後の唐の時代には中国で楷書の黄金期を迎え、有名な書道家が多く輩出されました。
日本では明治時代に学校教育の基準に定められ、以来長い間、標準的な書体として使用されてきました。
書道ではこれらの書体を使って、芸術性の高い文字を生み出します。書道の基本に慣れてきたら、さまざまな書体にチャレンジしてみるのも良いでしょう。